新刊/有山達也エッセイ集『装幀のなかの絵』(四月と十月文庫3)


画・牧野伊三夫



表紙の絵も牧野伊三夫さんによるもの。



有山さんが装幀を手がけた坪内祐三さんの『一九七二「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」』



先日からお知らせしていた、新刊『装幀のなかの絵』(四月と十月文庫3)がついにできあがりました。雑誌「クウネル」などを手がける人気グラフィックデザイナー、有山達也さんのエッセイ集。何ともインパクトのあるカバーの絵は、「四月と十月文庫」シリーズのすべての装幀を手がける牧野伊三夫さんが、著者の有山さんを描いた肖像画。「僕の郷里へ行ったときに、路傍でモデルをしてもらって描いた」とのこと。最初に見たときは驚きましたが、味わいのあるすてきな装幀に仕上がりました。今週頃から書店にも並び始める予定です。


有山達也さんは、雑誌「クウネル」や「雲のうえ」のアートディレクションを手がけるほか、町田康宿屋めぐり』『東京瓢然』、川上弘美『ざらざら』、高山なおみ『じゃがいも料理』など、様々な本の装幀を手がけてきました。港の人で刊行した『目であるく、かたちをきく、さわってみる。』のブックデザインも有山さんによるもの。その他、小学館から刊行されている「永遠の詩」シリーズなど、本当にたくさんの本を手がけています。


本書は、有山達也さんにとって初めての著作となります。美術同人誌「四月と十月」連載のエッセイ「装幀のなかの絵」を加筆増補した15編と、書き下ろし1編を収録。実際に手がけた装幀や雑誌などの写真も多数収録されています。「アートディレクター、デザイナーの理論というより、仕事の現場で、イラストレーターや写真家、アーティストなどと実際どういうやりとりが行われているか、そのときどう考えてどう応対し、仕上げていったか、また、写真家やアーティスト、編集者などの仕事に対する向き合い方」が描かれています。本書を読めば、様々な人たちと一緒に試行錯誤をしながら1冊の本を作り上げていく、有山さんの仕事の仕方、そして彼の頭のなか、心のなかを知ることができます。


また巻末には、有山さんと共に「クウネル」を作ってきた元・編集長の岡戸絹枝さんによる特別寄稿「天使が通る」を収録。本文中には、「クウネル」創刊時の岡戸さんとのやり取りも収められています。本文を読んでからこの寄稿を読むと、デザイナー/編集者それぞれの立場から見た創作現場の秘話を知ることができるはずです。


デザイナー志望者にはもちろん、カルチャーに関心を寄せる人、本好きの人、ビジュアルアーツを志す人まで、幅広く楽しめる1冊です。



「有山さんのこのレイアウトは、どういう仕組みになっているんですか?」とか「なぜ、この写真と、この写真を組み合わせたんですか?」と質問を受けることがある。その問いに対して「う〜む、感覚で」とか「なんとなくかなあ」と答えてしまうことが多い。それは決して嘘ではない。しかし、正確な答えでもない。ただ、それを言葉にするのが、難しい。頭の中には伝えたい塊が、ダラーンとぶら下がっているが、それを言語化する能力がちょっと足りないらしい。


(略)


こうした部分を、本書の具体例の中で、少しは言語化できたたように思う。考え方の断片がところどころに散らばっているはずである。書くことによって、自分の考え方もだいぶ整理できたように思う。あるひとつのアートディレクションの方法と考え方として、読んでいただければ幸いである。


「はじめに」『装幀のなかの絵』より


本書の刊行を記念して、12月10日(土)に青山ブックセンター本店で刊行記念トークショウを開催します。有山さんの他、本書にも登場する画家の牧野伊三夫さん、写真家の久家靖秀さんが出演、司会は本書を編集した大谷道子さん。みなさまぜひ
お越し下さい(詳細はこちら)。