新刊『荒木陽子全愛情集』


7月7日に『荒木陽子全愛情集』を刊行いたしました。長い時間をかけて、じっくり取り組んできた企画です。アラーキーこと荒木経惟さんの妻でエッセイスト、荒木陽子さんが生前に執筆したエッセイ、小説、詩など、これまで単行本に収められてこなかったものも含めたすべてを集め、1冊にまとめたものです。
天才写真家アラーキーに「私を写真家にしてくれたのはヨーコだった」と言わせ、「このポートレイトを生涯私は超えることはできないであろう」という遺影を撮らせた女性。荒木陽子さんは、夫の写真集『わが愛、陽子』に文章を寄せたことをきっかけに、雑誌の連載を担当したり、夫の写真との組合せで旅行記を出したり、エッセイストとして活躍し、天性の文章家と評価されていました。日常のことを天真爛漫につづるその文章の端々には、機敏に本質をとらえる観察力、人の情を感じ取る繊細さ、おとなの女性の官能が溢れています。
亡くなったのは1990年。ですから、エッセイには、今はもうない昭和の時代の映画館やホテルやレストランの名前もたくさん登場します。あの時代を懐かしんだり、おどけた冗談に笑ったり、夫婦の愛に感動したり、ちょっとしんみりしたり。写真のなかの陽子さんが、少女になったり女になったり、豪快に見えたり、はかなく見えたりするのと同じに、ひとりの女性のいろいろな顔を見せてくれます。
そして堀江敏幸さんの解説「ズブズブの現在を生きる 荒木陽子のために」は、陽子さんの文章の魅力、そして、生きることの喜びと悲しみを体現する荒木陽子という存在を、私たちの胸へと伝えてくれます。
ブックデザインは祖父江慎さんにお願いしました。シャネルの真っ赤な口紅をいつも使っていたという陽子さんにふさわしい、しっとりとした手触りの真っ赤な本になりました。784ページの、陽子さんの溢れるほどの「愛情」です。どうぞお手にとってごらんください。




表紙も赤、そしてポートレイト。陽子さん33歳のころと思われます。



ページの奥にも赤い色。



[書名]荒木陽子全愛情集
[著者]荒木陽子
[ブックデザイン]祖父江慎+福島よし恵(コズフィッシュ)
[仕様]四六判正寸/上製本/口絵+本文784頁
[定価]5000円(本体価格・税別)