2008年を振り返って


2008年も残すところあとわずかとなりました。〈港の人〉も、今日から正月休みに入りました。


今年一年の〈港の人〉の出版活動を振り返ってみると、たくさんの書籍のなかでもやはり『雪の宿り 神西清小説セレクション』の出版が大きな出来事でした。


『雪の宿り』は、チェーホフの翻訳者として知られる神西清の小説を集めた書籍です。「神西清」という名前は、岩波文庫などのチェーホフの本で誰もが一度は目にしたことがあると思いますが、翻訳家としての偉業に対し、小説家としてはほとんど知られておらず、その小説は今では読むことが難しい状況になっています。しかし、実際にその作品を読んでみると、美しい日本語の響きや、チェーホフの戯曲を思わせるようなどこか冷めた世界観など、現代にこそ読んでほしい秀逸な作品ばかりです。こうした時代のなかで埋もれてしまった作品を蘇らせることができたのは、〈港の人〉にとっても大きな事件でした。


しかし刊行して間もない時期には、一般の書店や読者の方々からの反応がなかなか届かず、落ち込むときもありました。そんなときに大きな励みとなったのは、堀江敏幸さん(「毎日新聞」)や岡崎武志さん(「BOOK ジャパン」)といった方々による書評でした。


堀江さんには、『樹上の猫』『光が射してくる』でも大変お世話になっていますが、『雪の宿り』についても、刊行するとすぐに書評を書いていただき、驚くほど鋭い批評をしてくださいました。また、岡崎さんにも、〈港の人〉の背中を押してくれるような熱い思いのこもった書評をいただき、本当にこの本を出してよかった、と実感することができました。おふたりを始め、本の魅力を伝えてくれる書評や記事が出ることで、「やはりいい本を出せば読んでくれる人はいるんだ」といつも勇気をもらっています。


昨年『光が射してくる』を刊行した際にも、この本を通してたくさんの人と知り合うことができましたが、『雪の宿り』もそうした嬉しい出会いを生む本になりました。こういう本こそ、出版された後も大事に大事に育てていきたいと思います。



http://www.minatonohito.jp/books/b079.html


雪の宿り 神西清小説セレクション

雪の宿り 神西清小説セレクション