新刊紹介『曠野と演劇』(上田美佐子著)


遅くなりましたが、5月新刊『曠野と演劇(こうやとえんげき)』ができあがりました。東京・両国にある劇場シアターX(カイ)の芸術監督・演劇プロデューサーの上田美佐子さんによる、初のエッセイ集です。


シアターXは、1992年に両国に設立され、ポーランド、ロシア、イスラエルなど世界各国から名作を呼び、高い評価を得ている劇場です。著者の上田美佐子さんは、当劇場の芸術監督として、チェーホフブレヒト郡司正勝、つかこうへい、花田清輝などの名作を精力的に公演し続けています。本書では、シアターXで奮闘されている日々の記録から、100編以上の作品論、作家論、演劇等についての短文・エッセイを収録しています。日本の演劇界をリードしてきた著者の、現在の演劇界、そして芸術に対する真摯な思いがつまった一冊です。



ちなみに、本書の扉をひらくと、ポーランドの著名な映画監督であるアンジェイ・ワイダが描いた画が収められています。著者の上田美佐子さんとアンジェイ・ワイダ監督との縁は非常に深く、1989年に東京で上演されたアンジェイ・ワイダ演出、坂東玉三郎主演、ドストエフスキー原作『ナスターシャ』からのおつきあいとなります。発端は1986年、ある新聞のインタビューでワイダ監督が「歌舞伎の玉三郎をつかって、ドストエフスキーの『白痴』のムイシュキン公爵とナスターシャ・フィリポブナの一人二役をやらせたい」と語っていたのを目にした上田さんは、すぐに坂東玉三郎口説きに走り、その後ワイダ監督に会いにポーランドに単身で3年間足繁く通い、ついにその夢のような構想を実現させました。この『ナスターシャ』実現までのお話は、本書の要ともなっています。


装幀は倉茂透さん。重厚感のある、豪華な印象の書物となりました。また、6月1日から7月4日までの間、第9回シアターX国際舞台芸術祭が開催されています。会場では連日『曠野と演劇』を始めとする港の人の書物が販売されています。ぜひ一度足をお運びください。



【第9回シアターX国際舞台芸術祭IDTF2010】
メインテーマ「チェーホフの鍵」
2010年6月1日(火)〜7月4日(日)
http://www.theaterx.jp/