トークイベント「キノコにうっとり。」飯沢耕太郎×祖父江慎(ジュンク堂新宿店)

先週金曜日(1月28日)に開催したトークイベント「キノコにうっとり。」飯沢耕太郎×祖父江慎ジュンク堂新宿店)は、盛況のうちに無事終了しました。トークは、『きのこ文学名作選』のブックデザインについて、飯沢さんが祖父江さんから話を聞き出していくという形で進み、カバー+表紙から本文の紙や文字組みのことまで、この本の成り立ちを詳細に話していただきました。本当に興味深い話ばかりだったので、いずれきちんと載録したいと思っていますが、まずはこちらのブログでトークの簡単な紹介をしておきます。


まず、この本を作るにあたって祖父江さんが一番大事にしたのは、それぞれの作品が作られた時代の雰囲気や感覚を楽しめる本にする、ということ。たとえば泉鏡花の「茸の舞姫」では、その時代によく使われていた文字の組み方を参考にした。現在この組み方をするのは相当大変だったけれど、それでもあえてこの組み方にこだわった。また、狂言の「くさびら」では、作品名の入るタイトルページのみ黄色い紙を使い、本文はまた別の白い紙を使っているが、これは「くさびら」が作られた江戸〜明治時代の本が、一枚だけ飾紙として色紙でタイトルを入れるのが一般的だったため、それをもとにデザインした。一方それとは逆の試みをしたのが、宮沢賢治の「朝に就ての童話的構図」。宮沢賢治が執筆活動をしていた時代というのは、ちょうど日本の印刷・製本状況が一番悪い時期で、賢治が生前に出版した本もあまりいい出来ではなかった。そこで賢治へのオマージュのような気持ちをこめて、逆に他の作品よりも高級感のある紙を使い、作品を読みやすい造りにした。


この他にも、通常は漫画本や週刊誌などに使われる紙をあえて使用したという話や、八木重吉の4行詩の大胆なレイアウト、様々な場所で話題になった長谷川龍生の詩のページのことなど、随所に様々な工夫が凝らした話をたくさんしていただきました。お客さんも、みなさん本をめくりながら真剣に祖父江さんの話に聞き入っていたようでした。


祖父江さん曰く、この『きのこ文学名作選』では、これまでは出版の都合などで泣く泣くあきらめていた造本やデザインをとことんやってみたそうです。普通は、デザインというのはやりすぎはよくないし、テキストの邪魔をしてはいけないもの。今回は、内容が「きのこ」だったからこそここまで色々できたわけで、普通の本ではこんなことは絶対にやれない。用紙の都合で限定3000部しか作れないということもあり、この本はまさに「奇跡の本」なんです、と仰っていました。最後に、同じ本はもう作れないけれど、「外国文学篇」や「日本文学part2」のような形で、ぜひ続きを作りたいですね、という話をおふたりでしながら、トークは終了しました。


トーク後は、おふたりがそれぞれきのこのイラストを描くという豪華なサイン会。おかげで、当初予定していた30分ではサイン会が終わらず、お店の閉店時間を過ぎてもまだ列が続いているという、大盛況ぶりでした。お店の方々にはご迷惑をおかけしましたが、本も相当売れたようで、2冊目として購入された方も多かったようです。本当に熱気のある一日でした。ご来場いただいた方々、そしてジュンク堂書店新宿店の書店員の方々、本当にありがとうございました。



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再来週の17日(木)には、青山ブックセンター本店にて、翻訳家・エッセイストの岸本佐知子さんと飯沢耕太郎さんのトークイベントが開催されます。「国際きのこ会館」のことや、おふたりのきのこ話など、ざっくばらんに話していただく予定です。現在予約受付中ですので、こちらもぜひお越しください。



『きのこ文学名作選』刊行記念
飯沢耕太郎×岸本佐知子 トークイベント
2011年2月17日(木)19:00〜(開場18:45〜)
[会場]青山ブックセンター本店
[料金]税込700円
[定員]45名