新刊『児童文化の原像と芸術教育』(叢書 児童文化の歴史穵)


すっかり遅くなってしまいましたが、7月新刊書籍のお知らせです。このたび、「叢書 児童文化の歴史」(全3巻)の第1巻『児童文化の原像と芸術教育』(加藤理編)を刊行しました。「児童文化」の歴史と意義を検証する画期的な叢書の第一弾です。


本叢書は、「児童文化」の誕生期ともいえる大正期から現代まで、各時代の児童文化を特徴づける重要文献を集め、解題とともに収録した本。第1巻となる『児童文化の原像と芸術教育』では、大正期から昭和12年までの重要文献(25文献)を収録し、誕生期・黎明期における「児童文化」の変遷をたどります。第2巻では、昭和初期から戦後まで、第3巻では60年代から現在までを対象にし、続けて刊行する予定です。


さて、こうして本書の内容を説明すると、先日刊行したばかりの『えびな書店店主の記』とはまたずいぶん趣の異なる本だと思われるかもしれませんが、デザインを手がけたのは2冊とも同じ、青木隼人さんです(『えびな書店〜』の装丁は牧野伊三夫さんによるものですが、全体のデザインは青木さんが担当しています)。本書の内容は、児童文化の歴史をひもとくうえでの貴重な資料となっていますが、本そのものは、上品で愛らしい雰囲気となりました。


実は港の人では、児童文化や教育学関係の書物を多々手がけています。児童文化関係では、〈港の人児童文化研究叢書〉として、『若松賤子 黎明期を駆け抜けた女性』(尾崎るみ)や『日本児童文学学会四十年史』(上笙一郎)『賢治童話を読む』(関口安義)の3冊、さらに日本の児童文学研究の歴史を追った労作『日本児童文学研究史』(上笙一郎)などを刊行しています。


最近では、『きのこ文学名作選』や『鈴を産むひばり』『珈琲とエクレアと詩人』など、ありがたいことに話題となった書物をつづけて刊行することができ、そのおかげで「港の人」という出版社を新たに覚えていただく機会も増えてきたように思います。一方で、港の人では、創業当時から復刻ものなどのいわゆる「学術書」と、詩集・文芸書など一般の書店で新刊として販売する「一般書」との両方を手がけてきました。学術書としては、日本語学や教育学、社会福祉学の他、児童文化関係の学術書も多数刊行しています。最近の刊行書籍の読者の方々にとっては意外に思えるかもしれませんが、こうした書籍も含めて、出版社・港の人は成り立っているのです。


前置きが長くなりましたが、この話を書いたのは、今月末まで開催中の古書ほうろうでの〈「四月と十月」と「港の人」フェア〉について少し補足をしておきたかったからです。今回のフェアでは、これまで新刊書店で扱ってもらっていた本に加え、児童文化関係の書籍や、少部数の詩集なども扱っていただいています。私たち自身も、学術書などをフェアとして置くことは難しいだろうと考えていたため、古書ほうろうさんから「これらの本も置きたいのですが」と申し出があったときには驚きましたが、「港の人という出版社についてもっと知っていただけたら」という古書ほうろうさんの言葉に、ありがたく甘えさせていただくことにしました。こうしたフェアは新刊書店ではなかなか難しいものだと思います。今回のフェアをきっかけに、「港の人」という出版社がどういう本を刊行しているところなのか、もっと知っていただけたらと思います。



また、このフェアの期間中のみ、特別に本来は非売品の書籍も販売しています。その本とは、保昌正夫さんの『同人誌雑評と「銅鑼」些文』。1997年から2000年まで「図書新聞」で行っていた「同人誌雑評」と共に、かつて保昌さんが携わっていた同人誌「銅鑼」のなかから編集後記などを収録した1冊です。今回のフェアのために特別に販売している書籍です(定価2100円)。フェアは今月末まで開催しています。ぜひ一度遊びにいらしてください。