読書への手引き書

miasiro2008-12-24



そろそろ年末の時期に差しかかっています。休みの間にゆっくり読書でもしようと、書店で本を物色している人も多いのではないでしょうか。私の場合、どんな本がいいかと探している際に目につくのは、いわゆる「書評本」など、読書への手引きとなる書籍です。小説家の方が好きな本を紹介してくれるものや、書評家の方がときには辛口で本を批評しているものなど、様々なジャンルの本がありますが、ふと気になって手にとったときに、「この本も読んでみようかな」と思わせてくれるような一冊を家の本棚にしまっておきたいと思います。


さて、こうした読書のための手引書としてぜひおすすめしたいのが、『光が射してくる 北村太郎未刊行詩とエッセイ1946-1992』です。


この本は、詩人の北村太郎さんが残した未刊行詩やエッセイを集めた書ですが、その半分以上のページを占めているのは、実は詩やエッセイではなく、少女向け雑誌に連載されていた読書案内です。ここでは、詩集、小説、実用書、思想書など、様々なジャンルの本が100冊以上も紹介されています。


この読書案内は、北村さんの仕事のなかでもほとんど知られていなかった原稿で、これらを本書に載せるべきかどうか、当初は大変悩みました。この原稿を入れることで、『光が射してくる』という書籍が500ページ以上の大著になってしまううえに、詩人としての北村さんのイメージとは色合いが違うのではないかと思ったからです。しかし、実際にこの本を出してみると、詩人の荒川洋治さんや片岡直子さん、そして小説家の堀江敏幸さんを始め、多くの方がこの読書案内の魅力を一番に指摘してくれました。


とてもやさしく、ときに鋭い言葉で一冊一冊を紹介してくれるこの読書案内を読んでいると、そこで挙げられている本をすぐにでも読んでみたくなります。私自身も、カースン・マッカラーズの小説や、ポール・ヴァレリイによる『ドガ・ダンス・デッサン』など、この本を編集しながら買い求めた本が何冊もあります。少女向けに丁寧な口調で語りかけてはいるものの、そこで扱われている書籍がすべて大人向けとしか思えないものばかりなのも、この読書案内の魅力のひとつです。


ぜひ、お正月休みの読書の手引き書に、また読書の楽しみに触れる一冊としてお役立てください。

もちろん、本の数ばかりよけいに読んだって、ちっともえらいことでも、すばらしいことでもありません。一つの本を読むごとに、自分の心に「なにか」を加えてゆく、その過程が、その人にとって意味のある経験なのです。それは本の数の問題ではありません。とはいえ、できるだけ多くの本を読めれば、それに越したことはないでしょう。「意味のある経験」をすることができる率は、多く読めば読むほど高くなるでしょうから。
北村太郎『光が射してくる』より