「本の島」をめぐる対話vol.1 について




先週の日曜日(5月16日)は、青山ブックセンター本店で行われた、「本の島」をめぐる対話vol.1(管啓次郎×野崎歓×鄭暎惠)に行ってきました。昨年逝去された元青土社の編集者、津田新吾さんを追悼したブックフェア「本の島」をめぐって、津田さんと親交の深かった三人のゲストの方々が、その仕事ぶりと人柄、そして「本の島」の正体についてたっぷりとお話ししてくれました。


津田さんは長年重い病を抱えながら、最後まで本作りに没頭されていたそうです。いつも原稿の段階から自分が作る本の構想が完璧にできあがっていて、ときには表紙のデザインまで自分の手で行っていたといいます。野崎さんと鄭さんの体験談によると、雑誌に載ったおもしろい原稿を見つけると、ある日突然「青土社の津田です。この原稿はうちで本にします」と著者に電話をかける、というのが、津田さんのいつもの仕事ぶりだったようです。その代わり、自分が駄目だと思う原稿については容赦なく断るそうで、何度も仕事をした野崎さんに対しても、その態度は頑に貫いていたそうです。


このブックフェアのタイトルにもなった「本の島」とは、津田さんがいつか立ち上げたいと構想していた出版社の名前だったそうです。その出版社は津田さんの死によって実現しなかったけれど、彼が構想していた「本の島」とは何かということを、彼と縁のあった人たち、彼の本に魅せられた人たちによって、少しずつひも解いていてくこと。そうしていつか残された者たちによって「本の島」を築くこと。それが津田さんの司令を受けた者たちの使命じゃないだろうか。そんなことを、管さんは話してくれました。


私自身は生前の津田さんを知っていたわけではないのですが、三人のお話を聞きながら、津田さんが本当に真摯に本作りに取り組んでいたことがよくわかり、それほどまでに強い意志で本をつくり続けていた編集者がいたのだ、ということに、思わず胸が熱くなりました。またゲストの方だけではなく、会場に来ていたこのイベントの主催者や、「本の島」フェアを実現させたABC本店文芸担当の寺島さんなどにも、「本の島」についての思いをうかがうことができました。追悼会のような雰囲気でもあり、本の未来を語り合う秘密結社のような雰囲気でもあり、本当にすばらしいひとときでした。


出版業界の未来について考えると不安な気持ちになることも多いのですが、こうして「本」によってひろがっていく世界を目にすると、まだまだ希望をもっていいんだ、と力強い思いがわいてきます。「本の島」は、群島のように小さな島々によって形作られるようなものではないか、という話も出ていましたが、「港の人」もいつかその島の一部としてなれるだろうか……と、そんなことを考えさせられた一日でした。


写真は、この対話のために制作された何とも豪華な冊子です。ゲストの方々をはじめ、津田さんに縁のあった人たち、このフェアに魅せられた人たちのコメントが収録されています。この冊子を見るだけでも、今回のフェア&イベントの素晴らしさが伝わるのではないでしょうか?




「本の島」をめぐる対話vol.2は6月19日に開催されます。



「本の島」をめぐる対話vol.2
堀江敏幸×前田英樹×冨原眞弓トークイベント

■2010年6月19日(土)13:00〜(開場12:30〜)
■会場: 青山ブックセンター本店内・カルチャーサロン青山
■定員:120名様
■入場料:700円(税込)
http://www.aoyamabc.co.jp/10/10_201005/vol2619.html