今福龍太選書フェア「砂漠と書物」(じんぶんや第64講・紀伊國屋書店新宿本店5F)




書店での選書フェアのご紹介です。紀伊國屋書店新宿本店5階にて、「じんぶんや第64講 今福龍太選「砂漠と書物」」フェアが開催中です。「じんぶんや」とは、2004年9月から紀伊國屋書店新宿本店5階売場で展開されている、コーナー棚のこと。編集者、学者、評論家など、その月のテーマに精通したプロの本読みたちによる選書が行われています。第64講となる今回はフェアでは、「砂漠と書物」というテーマのもと、今福龍太さんが選んだ書物が並べられています。また、今福さんの新刊・近刊書籍も置かれており、弊社で発行している『ブラジルから遠く離れて1935-2000』も置いていただきました(写真中のピンクの本です)。


ル・クレジオ『砂漠』(新装版・河出書房新社)、安倍公房『砂の女』(新潮社)同『砂漠の思想』(講談社)、ボルヘス『砂の本』(集英社)など「砂漠(砂)」を主題とした本から、ブルース・チャトゥイン『ソングライン』(英治出版)など荒野や砂漠を旅する紀行文学本。そして、先日文庫化されたル・クレジオの『物質的恍惚』(岩波文庫)や、モーリス・ブランショ『来るべき書物』(筑摩書房)、エドモン・シャベス『問いの書』(書肆風の薔薇)同『書物への回帰』(水声社)など、書物の物質性を問いかける本まで、ずらりと並んでいます。


さすが紀伊國屋書店だな、と感じたのは、和書だけでなく、洋書も多く置かれていること。エドワード・アビー『砂の楽園』(東京書籍)、L. ヴァン・デル・ポスト『カラハリの失われた世界』(筑摩書房)など、邦訳書がすでに絶版になっているものも多くあったため、今回はそれらの原書をいくつか加えたそうです。他にも、今福さんが「現代最高のエッセイスト」と讃えるEliot Weinbergerの『An Elemental Thing』『Oranges & Peanuts for Sale』など、おすすめの洋書がたくさんあります。


先週の土曜日(18日)には、この選書フェアを記念して、連続トークイベント「〈書物的実在論(リアリズム)〉に向かって#1 砂漠から書物の未来へ」が催されました。このトークイベントでは、まずなぜ「砂漠と書物」というテーマを選んだのか、ということを話からスタートしました。電子的な環境に取り囲まれた現在、本は大きな転換点に立たされている。そして「電子書籍」の台頭によって、物質的な本の実在性が大きな変容を遂げようとしている。そんな状況のなかで、改めて本の実在性、本の身体性を考えてみたい。そのために、本が生まれた母胎でもあり、本が行き着く最果ての地でもある「砂漠」と、本の物質性を結びつけてみよう。これが、この連続トークイベントのテーマであり、選書フェアのテーマとなります。


第1回目ということもあり、いわゆる「電子書籍」をめぐる話題が多くを占めるトークとなりましたが、今福さんは、「電子書籍」を批判したり、紙とインクでつくられた「本」を懐かしむような、表層的な議論にはしたくない、とはっきり述べていました。昨今さまざまな場所で行われているこうした議論をもっと前の段階に引き戻して、本の本質的な問題、つまり本の物質性や実在性についての問題について考えたい、ということでした。「電子」か「紙」かという二元論的な見方ではなく、「本」の物質性をつきつめることで「本」のあり方を考える。そこにこそ、「本」をめぐる議論の新たな可能性が見つかるのではないでしょうか。


今福さんによるトークイベント「「〈書物的実在論(リアリズム)〉に向かって」は、今後も引き続き行われていくようですので、ぜひ次回も楽しみにしたいと思います。また、選書フェア「砂漠と書物」は10月12日まで開催中です。



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じんぶんや第64講 今福龍太選「砂漠と書物」
紀伊國屋書店新宿本店 5Fカウンター前
2010年9月6日(月)〜10月12日(火)
http://bookweb.kinokuniya.jp/bookfair/prpjn64.html