新刊『石都奇譚集』飯沢耕太郎


10月の新刊『石都奇譚集(せきときたんしゅう)』(飯沢耕太郎著)ができあがりました。本書は、現代を代表する写真評論家・飯沢耕太郎さんが、東アフリカの隆起珊瑚の島ザンジバルへの旅の日々を描いたアフリカ紀行。「ストーンタウン Stone Town」と呼ばれるザンジバル島の石造りの旧市街を舞台に、現実と幻想を交差させながら描いた珠玉の紀行集です。本文中には、飯沢さんが撮りおろした写真も多数収録されています。装幀は清水理江さんです。


ザンジバルとストーンタウンは、著者の飯沢さんにとっての憧れの地だったそうです。飯沢さんは、1979年から80年に日本アフリカ文化交流協会の学生としてケニア・ナイロビに滞在、その際に学んだスワヒリ語の発祥の地とされているのが、このザンジバルとのこと。その後飯沢さんは、1982年に短期間ながら初めて訪れ、2000年には10日あまりをストーンタウンや東海岸のパジェで過ごします。しかし、いつかこの島に長期滞在したいという思いがふくらみ、2008年4月半ばから6月半ばまでの約2カ月、この地に滞在することができたそうです。そしてこの滞在の間に、飯沢さんが現地で購入したノートに綴っていったのが、『石都奇譚集』の物語群です。


この物語群を本にしたいと考えていた飯沢さんの話にいちばんに反応したのが、サウダージ・ブックスの淺野卓夫さん。そうして、サウダージ・ブックスが発行元となり、港の人が発売元をつとめる、ということでこの『石都奇譚集』が生まれました。


書店には20日頃から並び始める予定です。飯沢耕太郎さんによる〈魔術的トラヴェローグ〉を、よろしくお願いします!

ストーンタウンに足を踏み入れる者は、そのうち自分の位置を見失い、絡みあう唐草模様の迷路をさまよっているように感じるだろう。その理由は、蜘蛛の巣の編目のように際限もない小径の錯綜、同じような造りの木彫りの扉、見分けのつかない似通った建物、そっくりの壁の染みにあるだけではなく、どうやらこの街の全体の形が三角形であるためらしい。
(中略)
今日のストーンタウンは読めない文字で書かれた手紙である。だが明日になれば、小路と建物の不規則な連なり、まるで暗号のようなそのカリグラフィは、くっきりとした意味を備えた文章として、私の目の前にあらわれるはずだ。
飯沢耕太郎『石都奇譚集』より)

『石都奇譚集 ストーンタウン・ストーリーズ』
http://www.minatonohito.jp/products/106_01.html