飯沢耕太郎×岸本佐知子トークイベント(青山ブックセンター本店)


トークイベントの様子(青山ブックセンター本店で開催)



先週木曜日(17日)、青山ブックセンター本店で行われた、『きのこ文学名作選』刊行記念 飯沢耕太郎×岸本佐知子トークイベントは、盛況のうちに無事終了しました。公の場で二人で話されるのは今回が初めてということでしたが、終了後に飯沢さんが「岸本さんとは何かこう言語感覚が近い気がするなぁ」とつぶやいていたように、本当にぴったりと息が合ったお二人でした。


トークでは、まず飯沢さんが『きのこ文学名作選』ができるまでの経緯を紹介し、それから本書を読んだ感想を岸本さんに話していただきました。岸本さんは、最初に本書を見たときは「何てとんでもない本…」と思ったそうですが、読むうちに、各作品のおもしろさに惹き付けられたそうです。初めて読む作家も多く、なかでも特に気に入ったのは、どちらも妖しげででたらめな話でおもしろかったという、今昔物語集「尼ども山に入り、茸を食ひて舞ひし語」と狂言集「くさびら」。考えてみると、きのこを食べて踊り狂う尼の話などは、どこか岸本さんの「「国際きのこ会館」の思ひ出」に通じる世界かもしれません。


以前この日記でも紹介しましたが、国際きのこ会館とは、かつて会社勤めをしていた岸本さんが偶然泊まることになった、群馬県桐生市に存在したきのこ尽くしのホテルのこと。飯沢さんも開館中に訪問できなかったというこの伝説のホテルについて、岸本さんにたっぷりと語っていただきました。実際の語り口でなければこの話のおもしろさは伝わらないと思うので、詳細については、ぜひ『気になる部分』(白水社Uブックス)を読んでみてください。ただし、トークでは本には書けなかった国際きのこ会館での気が狂ったような宴の模様についても、詳しく話していただきました。まるで『マタンゴ』の世界のような狂乱の夜だった、とのこと。また、飯沢さんからは国際きのこ会館の成り立ちについて詳しく話していただきました。トーク後のサイン会で「『気になる部分』を読んでもまだ信じられなかったんですが、本当に実在したんですね…」と話していた方がいらっしゃいましたが、岸本さんも、エッセイを書く前は「そんなおかしなホテルがあるはずない」と誰にも信じてもらえなかったそうです。


今回のトークで一番うれしかったのは、飯沢さんの『きのこ文学大全』(平凡社新書)に登場し、本書の帯文としても使用した「きのこは文学である。そして文学はきのこである」という言葉についてのお話。岸本さん曰く、本書を読んでようやくこの言葉がしっくりきた、とのこと。きのこは他の生物に比べるとマイナーな存在だけれど、人類は何らかの形で常にきのこを必要としてきた。きのこは、ときに恐怖や官能の対象であり、ときにはちょっとバカなイメージだったりする。そもそも、きのこの本体である菌糸体は地面の下に隠れていて、目には見えないけれどそれが無意識のうちに人類に広がっている。そうした菌糸体の一部が目に見える形でぽこっと出現したのがきのこである。そういうきのこのあり方というのは、まさに人類にとっての「文学」のあり方と同じなのかもしれない、と納得した。岸本さんがそう語ると、飯沢さんも「本当にそうなんですよ」と強く頷いていました。


その他、飯沢さんは以前から気になっていたという翻訳家の仕事のことや、岸本さんがアンソロジー集『変愛小説集』(講談社)の編訳を手がけているということで、お互いに「変愛小説」「きのこ小説」を見つけ出すコツについて話していました。そしてトークの最後には、岸本さんが偶然見つけたというきのこノワール(!)小説、Jeff Vandermeer“Finch”の話となり、大いに盛り上がりました。きのこ人間と人類との闘いを描いた、きのこ帝国三部作の三作目だそうです…。まだまだきのこブームは続きそうです。


Finch

Finch