新刊『目であるく、かたちをきく、さわってみる。』を刊行しました。






新刊『目であるく、かたちをきく、さわってみる。』を刊行しました。本書は、アメリカの絵本作家マーシャ・ブラウン作、詩人の谷川俊太郎が翻訳した写真絵本の復刊本です。港の人にとっては初のオールカラー本。ブックデザインは有山達也さんが手がけています。有山達也さんといえば、「Ku:nel」をはじめさまざまな本・雑誌のデザインを手がけ、最近では小学館から刊行されている「永遠の詩」シリーズのアート・ディレクションも手がけています。また有山さんは「四月と十月」の同人でもあり、〈四月と十月文庫〉としてエッセイ集『装幀の中の絵』も刊行予定です。


さて、本書はもともと、『めで あるく』『かたちを きく』『さわって みる』という3冊の写真絵本として、1979年に佑学社から刊行されました(元の本についてはこちらのサイトに写真が掲載されています)。作者のマーシャ・ブラウンは、『三びきのやぎのがらがらどん』や『せかいいちおいしいスープ』など、数々の名作を生み出しているアメリカの絵本作家。彼女が、身近にある自然をみずみずしい視線で写しとった写真と、それらとともにつづったことばをまとめたのが、この3冊の写真絵本です。


長らく絶版となっていたこの3冊を約30年ぶりに復刊するにあたっては、いくつかの変更を加えています。まずは、これら3冊を1冊にまとめ、四六判変型というコンパクトな形にし、それに伴い写真の大きさや文字の置き方も大きく変わりました。書名も『目であるく、かたちをきく、さわってみる。』となり、巻末には復刊にあたっての谷川俊太郎さんによる書き下ろし「訳者あとがき」を収めています。写真絵本の復刊ではありますが、写真詩集のような雰囲気の本に仕上がっています。個人的には、八木重吉の詩世界にも通じるような本だと思っています。


本書を読んでいくと、子どもに語りかけるようなやさしい平易なことばづかいのなかに、「この世界とどう向き合うか」という作者の真摯な思いが伝わってきます。自然のなかにある、さまざまな色、かたち、匂い、音、手触り…。そうしたものの美しさに、ふだんはなかなか気づくことができません。しかし、からだの感覚を研ぎすますことで、私たちのまわりにあるなにげない光景を見つめなおし、その美しさを感じとることができます。この本を読み、ふと目をあげると、まわりの世界がいままでよりも少しだけ姿を変えているような気がしてきます。


みること
それは 目で あるくこと
あたらしい せかいへと。


人類の未来を左右する岐路に立った今だからこそ、子どもにも、そしておとなにも、ゆっくりと読んで深く感じてもらいたい1冊です。



私たちはそうとは意識せずに、なんでもない一枚の葉っぱに、美しさと呼ぶしかないものを感じているのだと思います。でも美しさってなんでしょうか。古今東西たくさんの人が〈美〉について考え、書いていますが、美しさというものは、基本的に説明や解釈を拒むものかもしれません。


(略)


その存在はかけがえのないものであること、そしてそれが他のすべての存在と結ばれていると気づくこと、見る、聴く、嗅ぐ、触れる、味わうという私たちの感覚も、ひとつひとつ別々のものでありながら、心とからだの深いところでひとつであるということを、マーシャさんは私たちに気づかせてくれます。




谷川俊太郎「訳者あとがき」より