姜信子『生きとし生ける空白の物語』を刊行しました。


姜信子(きょう・のぶこ)さんの『生きとし生ける空白の物語』。姜さんの著作は、港の人では『はじまれ 犀の角問わず語り』に続く2冊目になります。『はじまれ』は、書店や読者の皆様を驚かせる白一面の装幀でしたが、一転、こちらは色彩豊かな本に仕上がりました。表紙だけでなく、長くのびる見返しの表裏にまで、幻想的で、でも、不思議ななまなましさのある絵で敷き詰められています。絵はすべて、屋敷妙子さんの作品。

装いは変わっても、姜信子さんの文章にこもる熱さ、強さ、切実さ、激しさは変わりません。いえ、さらに増していると言うべきでしょうか。新潟県柏崎(この本では、カシワザキと表記されます)と済州島というふたつの場所を旅する話が綴られます。どちらも姜さん自身の出自に深くかかわる土地ですが、もちろん単なる旅の記録ではありません。紀行文、散文、詩、どの範疇からも言葉がはみ出し、あふれ、読む者の心に轟々と注ぎ込まれてきます。
前半部「カシワザキ ざわめく空白」は『新潟日報』に、後半部「済州島 オルレ巡礼 空白のほうへ」は『西日本新聞』に連載されたものをもとにしています。真ん中には書き下ろしの一文「わたしはひとりの修羅なのだ。」が置かれていますが、その一節を引用します。

時は流れる、痛ましく流されていく、私は痛みも惑いも大切な人を愛するように抱きしめる、踏みとどまる、まことのことばに想いを馳せる、いまひとたび空白のほうへと確かな想いを向ける、父の戒めを噛み締める、踏みとどまる、かつて父を訪ねたもうひとつの旅、とりかえしのつかないことこそがはじまりである、あの大切な空白への旅の道のりをいまいちど呼び戻す。

あること、そして、ないこと。その彼方にあるものを目指して、姜さんの旅はまだまだ続きそうです。「はじまれ」という、4年前の3月のあの日への祈りを胸にたずさえつつ。

離散の地をはるかに求めて、姜信子はさすらいつづける詩の旅人である。

これは、詩人、金時鐘さんがこの本に寄せてくださった文章からです。

来月、新潟の北書店で、刊行を記念したイベントがおこなわれます。詳細は改めてお知らせします。


『生きとし生ける空白の物語』
[著者]姜信子
[造本]四六判変型/並製本/カバー装/本文216頁
[定価]2,200円(本体価格・税別)
ISBN978-4-89629-293-0 C0095
http://www.minatonohito.jp/products/163_01.html