『ポスト三・一一の子どもと文化』を刊行しました


一昨年、港の人では『叢書 児童文化の歴史』全3巻を刊行しましたが、このシリーズをはじめ、上笙一郎さんの著作など、「児童文化」は港の人の出版物の大切なテーマのひとつになっています。『叢書 児童文化の歴史』の編者でもあった、加藤理さんと鵜野祐介さんが編著を務める新刊『ポスト三・一一の子どもと文化 いのち・伝承・レジリエンス』は、これまでの本とは角度を変え、児童文化の現在と未来に目を向けた、とてもアクチュアルな内容になっています。
鵜野祐介さんのあとがきには、本書の目的として2点が上げられています。第一には、震災から4年目を迎えて、東日本大震災が子どもや子どもの文化に及ぼした影響を総括しておくこと、そして第二には、たんなる「新しさ」ではなく、「喫緊の人類史的課題」としての「今日的な児童文化論」を提示する、ということです。

「三・一一」の体験は、単なる自然災害の一つではなく、被災地のみならず日本中、世界中の、子どもたちをはじめあらゆる世代の人びとに、世界観や人生観の大きな転回を迫る出来事として位置づけることが求められており、人類が「ポスト三・一一」の世界を生き延びていくためにこれから何を成すべきかについて、次代の担い手である子どもたちが創造・享受・継承してきた文化を通して考える必要があると認識されるのである。


本書には、計21本の論考が収められています。書き手は児童文化研究者や教育の専門家だけでなく、文学や民俗学、生物学などさまざまな分野の専門家、そして、仙台でアトリエを開設し子どもの表現活動の現場にいる人、石巻保育所の所長さん、茨城県で深刻な放射能汚染被害を受けた園の園長さんなど、被災のただ中におられる人もいます。震災の瞬間もその後も子どもたちに寄り添い続けるかたがたの証言には、重たいものが多く含まれています。
サブタイトルにある「レジリエンス」は、「困難に直面した人びとがこれを乗り越えていく力」を意味します。震災の貴重な記録のひとつとして、また、「ポスト三・一一」の社会をどのように作っていくのか考え続けていくための提言として、「児童文化」という研究分野を越えて、本書が広く読まれることを願います。



[書名]ポスト3・11の子どもと文化  いのち・伝承・レジリエンス
[編著者]加藤理・鵜野祐介
[造本]A5判/並製本/カバー装/本文400頁
[定価]4,000円(本体価格・税別)
ISBN978-4-89629-290-9 C3037
http://www.minatonohito.jp/products/164_01.html