『「児童文化」の誕生と展開』を刊行しました


3月末に、『「児童文化」の誕生と展開 大正自由教育時代の子どもの生活と文化』を刊行いたしましたので、ご紹介いたします。
これは、本文864ページ、函入りの本格的な学術書ではありますが、内容は決して難解なものではありません。明治、大正、昭和と、子ども達がどんなふうに暮らしていたのか、どんな遊びをして、どんな絵や文章やエンターテイメントに触れて心を育んでいったのかが、いきいきと伝わってきます。序章で、著者はまず、2011年の震災のとき、避難所の子どもたちが絵を描いたり、おとなの語るお話に耳を傾けたり、救援物資として全国から送られてきた絵本やマンガをむさぼるように読み、「文化」を貪欲に求めていたということから論じ始めます。もちろん震災などの緊急時に限らず、子ども時代に触れる「文化」がどんなに輝いていたか、人生の宝物であり、大切な意味を持っているか、経験として理解してくださるかたも多いと思います。
埋もれていた文献にあたり、児童文化史をひもとき、さまざまな角度から丹念に「児童文化」を照らし出し、「児童文化」とは何か、改めて問い直す加藤理先生のこの研究は、この分野における画期的な仕事として注目を集めることと思います。第一部ではまず、日記や著名人の回想録などから、江戸末期から明治期の子どもたちが触れていた文化を紹介し、第二部では、大正10年頃を中心に仙台でどのような児童文化活動が展開されたかを詳細に追います。そして第三部では、大阪や函館に舞台を移しますが、全体を通して、本とか童謡とか玩具といった事物だけでなく、さまざまな活動や実験的な催しをおこなう際の苦労、子どもたちの幸せを願う思い、新しい精神の実践に夢中になるさまなど、児童文化を広めていった人々の人間像にまで光を当てていくのです。多面的な論証から、テレビもない時代、とくに地方都市においては、児童文化の浸透のためには数多くの人々の草の根的な、それぞれの人生をかけた働きが不可欠だったことが如実に浮かび上がります。戦後の児童文化、そして現在の児童文化も、すべてこういった多くの働きの積み重ねの上にあることを痛感させられます。
児童文化研究者に限らず、児童文学、教育、保育、子ども向けメディア等にかかわる方々に本書を手に取っていただくことを心から願っています。別冊として、今は幻の雑誌とも言われる貴重な児童向け雑誌『小鳥の家』(大正12年)と『赤い実』(昭和2年)の複製がついています。


[書名]「児童文化」の誕生と展開  大正自由教育時代の子どもの生活と文化
別冊複製2 『小鳥の家』後藤隆編輯発行/『赤い実』金野細雨編輯発行
[著者]加藤理
[造本]菊判/上製本/貼函入/本文864ページ/別冊複製雑誌2冊
[定価]12,000円(本体価格・税別)
ISBN978-4-89629-294-7 C3037 ¥12000E
http://www.minatonohito.jp/products/166_01.html