斉藤斎藤さんの『渡辺のわたし』の〈わたし〉と〈あなた〉

お名前何とおっしゃいましたっけと言われ斉藤としては斉藤とする


もうすでにあちらこちらで話題にしていただいていますが、斉藤斎藤さんの第一歌集『渡辺のわたし』が、新装版という形で、港の人から出ました。
これまではネット注文によるオンデマンド出版という形で刊行されていて、同時代の短歌を語るときに避けては通れぬ重要な存在であることは、誰もが認める歌集でしたが、今は、そちらでは現在入手できなくなっています。
今回の新装版では、新たに歌人、阿波野巧也さんの解説が収録されています。阿波野さんの解説には、こんな一節があります。
 

この歌集に通底する最も大きいテーマはやはり歌集のタイトルにあるように、〈わたし〉なのだ。〈わたし〉とは何者か。それは歌集内で何度も問われている。


別の箇所で阿波野さんも述べられているように、〈わたし〉ということだけがこの歌集のテーマではないでしょう。でも、斉藤斎藤さんが仕掛けた〈わたし〉への揺さぶりは、短歌表現の上でも、現代に生きるひとりの私にとっても、これから先ずっと、繰り返し、じわじわと、効き目を失わずにいることと思います。
ところで、ほぼ同時に、斉藤斎藤さんの第二歌集『人の道、死ぬと町』が短歌研究社から出ました。タイトルの文字が似た雰囲気になったのは、まったくの偶然です。この新作歌集、版元としてはちょっと悔しいですが、とても完成度の高い、ものすごい歌集です。オンデマンド版をすでに持っていらっしゃるかたも、新装版と、第二歌集とコンプリートするということで、ぜひともよろしくお願いします。

新装版のために書かれた、斉藤斎藤さんのあとがきから引用します。

すべては無常だ。あなたがこれを手にする本屋が、明日があるとは限らないのだ。想像してごらん、amazonのない世界を。


紀伊國屋書店新宿本店で、大々的に展開していただいています。ありがとうございます。
もちろんamazonでもお買い求めいただけます。