読者との思わぬ出会い


編集者の方などとお会いすると、まずはお互いの会社や個人で手掛けた本について言葉をかわすのが、自己紹介がわりの挨拶となります。その際、こちらが「こんな本を出しています」と言う前に、先方から「港の人ではこんな本を出されてますね」と言われると、やはりうれしいものです。最近では、北村さんの『光が射してくる』を挙げてもらえることが多いのですが、なかには「あ、それを読みましたか」とこちらが驚いてしまうことがあります。その瞬間、単なる同業者との挨拶が、熱心な読者との出会いに変わるのです。


ライター・編集者の河上進南陀楼綾繁)さんと初めてお会いして、「港の人といえば、保昌正夫の『和田芳恵抄』『川崎長太郎抄』を出していますよね」と言われたときには、本当にびっくりしました。どちらも、港の人が創立されてすぐの頃に少部数限定で出した本で、弊社でもすでに品切れとなっています。こうした希少本を読まれているのにも驚きましたが、〈港の人〉の名前をしっかりと覚えてくれていることに、思わず感動しました。


和田芳恵抄
川崎長太郎抄



最近では、別の出版社の営業担当の方とお会いした際、思わず話が弾んだことがありました。私の名刺を見たとたんに相手の方が「ああ、港の人ですか!」と興奮したように言われたので、「『光が射してくる』を読まれたのかな」と思っていたところ、「僕、吉行淳之介の大ファンなんですよ」とのことで、「じゃあ『淳之介の背中』を…」と一気に話が盛り上がりました。その後も、「たくさんの秘蔵写真に感動した」、「本文の紙やデザインも凝っていて、すごくいい本だなと思った」など次々に本の感想を言っていただき、本当に気に入って読んでくれたのがよくわかりました。


淳之介の背中


こんな風に、〈港の人〉の本の読者と不意に出会うとき、それが自分が担当した本ではなくても、誇らしいようなくすぐったい気分になります。ましてそれが同業者の方となると、出版社としての力をも認めてもらえたようで自信がわいてきます。こんな出会いがこれからも続くように、すてきな本をつくっていきたいと思います。