ジョンソンの『英語辞典』名定義


昨日に引き続き、サミュエル・ジョンソンのことを少し。写真は、『英国文化の巨人』のなかの一頁です。本書の各章のとびら裏には、ジョンソンの名言・格言の抜粋が収録されています(写真がぼやけていて読みづらいかもしれませんが…)。


この他にも

「大事なのはどう死ぬかではなく、どう生きるかだ。死ぬのはほんの束の間のことだ。どうということはないのだ」

「世にいう平等主義者は自分たちの水準まで他人を引き下げることを望むが、自分たちの水準まで引き上げることには我慢できないのだ」


など、機智に富んだことばをいくつも紹介しています。こうしたジョンソンの名言・格言はとても人気があり、イギリスでは聖書とシェイクスピアについで各種の引用辞典にその名言が掲載されているそうです。


サミュエル・ジョンソンという人は、業績だけではなくその人柄や人間性によって人を惹き付けているのだろうと思います。『英国文化の巨人』で描かれているジョンソン像は、博識で、辛辣さのなかにもユーモアを忘れず、ときに奇天烈な印象を与えます。その容姿は肖像画で見ることができますが、イングランドの書籍商の父親からは「悪性の憂鬱症」を受け継ぎ、体躯は180センチメートルを超す巨漢で「大熊(ウルサ・マイヨール)」とも呼ばれたそうです。


そんなジョンソン博士の性格には皮肉屋な面も多く見られ、彼の代表的な仕事である『英語辞典』のなかにもそれが現れています。『英語辞典』は、ジョンソンがほぼひとりの力によって編纂しているため、彼独自の視点や考えによってそれぞれの単語の意味が解説されています。そのせいか、各単語の定義には、皮肉的なもの、ユーモアあふれるもの、また偏見に満ちた表現も多いようです。


おもしろい例としては、たとえば「pension(年金)」は「政府に雇われて国を裏切った者に与えられる報酬」、「patron(パトロン)」は「支援・扶助、または保護する人。通例存在な態度で扶助し、お世辞を報酬とする浅ましい奴」など、痛烈な定義がされています。他にも、「excise(物品税)」は「日用品に課せられるおぞましい税金で、税額は資産評価の専門家によってではなく、物品税を徴収する側に雇われたけちな手先によって決められる」など、かなり過激な定義もあります。


辞書というと「公正さ」が売りであるようなイメージがあるのですが、編纂しているのはもちろんひとりの(あるいは複数の)人間ですから、それぞれの辞書に独自の特徴があるのは当然かもしれません。『英国文化の巨人』ではいくつかの名物定義の例が紹介されていますが、それらを読んでいると、ジョンソンによる単語の解説をすべて読んでみたくなります。



国語辞典はこうして作る 理想の辞書をめざして

国語辞典はこうして作る 理想の辞書をめざして

*弊社で以前刊行した『国語辞典はこうして作る』(松井栄一)でも、辞書における単語の定義・解説のおもしろさと難しさが描かれています。


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