リブロ渋谷店と『黒田三郎詩集』



先週は、できあがったばかりの「港のひと」7号をもって、都内の書店をいくつかまわってきました。それぞれの書店の特色を観察しながら、新刊の紹介や既刊本の補充をお願いしたり。書店営業は、書店員さんとお話しする貴重な機会です。


まずはリブロ渋谷さんへ。ここはゆったりとした明るいフロアで、いつもおもしろそうなフェアを行っていたり、ひとつひとつの棚の作り方が魅力的な本屋です。この日も、新刊『ピストルズ』講談社)の発売を記念して、選書フェア「著名人の棚 阿部和重」を作っていました。


新刊の紹介などをしながら、文芸書担当のYさんと「詩集の売れ行きはどうでしょう?」と話していたとき、詩集の棚に一冊だけ残った現代詩文庫の『黒田三郎詩集』(思潮社)を発見しました。実はこの『黒田三郎詩集』、読みたいと思いながらもどこの書店でも見あたらず、古書店で気長に探してみようかと思っていたところでした。「(新刊書店では)全然見つからなかったのに」と驚いていると、「実は思潮社から数冊だけ出てきたものを送ってもらったんです」とのこと。Yさんのお話では、リブロ渋谷店では詩集がコンスタントに売れるようで、今回の『黒田三郎詩集』のように、絶版になったものを数冊だけ取り寄せて棚に置いておくと、お客さんがすぐに見つけて買っていくのだそうです。「特定の人というわけでもなく、本当に普通のお客さんが、すっと詩集を買われていくんですよ」という言葉に、何だか感動してしまいました。


リブロ渋谷店では、詩集の棚に『光が射してくる』『ことしのなつやすみ』なども置いていただいています。「いつかここで詩集のフェアをやれたらいいですね」とYさんとおしゃべりしながら、この日は『黒田三郎詩集』をありがたく買わせていただき、お店を後にしました。


「荒地」派の詩人のなかでも、黒田三郎の詩は、庶民的で暗いイメージが強く、以前は少し苦手でした。しかし、社会で働くようになって数年が経ち、改めてこの人の詩に惹かれていきました。単調な毎日や、辛い生活のなかで、みじめな自分の姿をじっとみつめているような、しずかで美しい詩です。

お前の上に明日
どんな運命が舞い落ちるか
お前は知らない
夜明け前にひそかに降った雪が
世界を一変させてしまうように
お前の知らない中に
不意に世界は表情を変える


(略)


暗い陰気な曲りくねった裏通り
お前は激しく唇をかむ
「俺は明日もこの道を行っては帰ってくるのか
俺が毎日行ってはただ帰ってくる道を」



(「一枚の木の葉のように」詩集『乾いた心』より)