万田邦敏×樋口泰人(at シネマヴェーラ)
先週の土曜日(17日)は、15時から馬喰町ART+EATで今福龍太さんのトークイベント「書物変身譚vol.2」に行ってきました。スーザン・ソンタグとロラン・バルトの思考をもとに書物のあり方を考える、濃密な2時間半でした。なかでも「書物は壁である」というソンタグの言葉をめぐって、書物という壁で自分を守ることもでき、また書物の壁の内側から外を攻撃することもできる…というお話がとても刺激的でした(このトークについてはサウダージ・ブックスさんのブログでも覚え書きを読むことができます)。
その後、今福さんのお話で頭がぼーっとしたまま、20時から渋谷のシネマヴェーラで行われた、「映画館大賞2010」での『グラン・トリノ』の上映(トーク:万田邦敏×樋口泰人)に駆け付けました。上映前のトークでは、万田さんの提案によって「イーストウッドの映画における女性とのつき合い方の変化」というテーマで、話が展開されました。
万田さん曰く、「映画のなかでのイーストウッドは、すぐに女性のスカートのフックを外してしまうようなプレイボーイだったけれど、『トゥルー・クライム』あたりから、女性との接し方が明らかに変わってしまったのではないか?」とのこと。そして女性との関係という視点で『グラン・トリノ』を見ていると、あることに気がつく。この映画は、イーストウッド演じる偏屈な老人ウォルトと、隣家に住むアジア系の少年タオとの交流を描いた物語で、「グラン・トリノ」とは、イーストウッドが長年大事にしてきたヴィンテージ・カーのこと。常にイーストウッドの傍らにいる「グラン・トリノ」ですが、実はイーストウッド本人が「グラン・トリノ」に乗り込みエンジンを掛けるシーンは一度も登場しない。いつも丹念にそのボディを磨き撫でさする、その姿はまるで女性を慈しむように見える。しかし決して自分で「彼女」に乗ろうとはしない。この「グラン・トリノ」とイーストウッドの奇妙な関係を見ていくと、彼が映画のなかで女性とどう接してきたかという歴史が見えてくるのではないか?
こうした万田さんの問いかけに対し、樋口さんは「イーストウッドと女性との関係でいうと、まるで自分の体の中に女性を取り込んで、彼女と一体化させているような瞬間がある気がします」と答えていました。万田さんも、イーストウッドは常にプレイボーイとして振る舞いながらもどこか女性的な一面がある、とこれに同意。その後は、イーストウッドの他の映画での女性との関係について互いに意見を出し合いつつ、『グラン・トリノ』をめぐって話が盛り上がっていきました。
そうこうするうちにあっという間に30分が過ぎ、トークは終了。そのまま『グラン・トリノ』の上映へ。『グラン・トリノ』を見るのはこれで3回目となりますが、トークを聞いた後ということもあり、また違った視点で映画を見ることができました。確かに、グラン・トリノは一度もイーストウッドによって運転されず、彼が車をみつめる視線が妙に色っぽく感じられました。万田さんの指摘のように、「イーストウッドと女性との関係」について考えながらもう一度他の映画も見てみたい、という気にさせられました。
樋口さんと、万田さんのイーストウッドについての考察は、それぞれの批評集『映画は爆音でささやく99-09』『再履修とっても恥ずかしゼミナール』のなかにも読むことができます。こちらの2冊もぜひ読んでみてください。
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