新刊『はじまれ 犀の角問わず語り』(姜信子)



*真っ白なカバー。表には「は」という文字だけがぽつりと置かれています。




*背には「じ」という一文字が。



*カバー全体を見まわしてはじめて「はじまれ」という文字が読み取れます。



*本を光にかざすと、表紙に描かれた絵が白いカバーの間から透けて見えてきます。



12月の新刊書籍のお知らせです。今年の刊行書籍は、この本で最後となります。サウダージ・ブックスと共同制作による『はじまれ 犀の角問わず語り』、『ごく普通の在日韓国人』『私の越境レッスン』『棄郷ノート』などの著書をもつ、作家・姜信子さんの新刊です。編集はサウダージ・ブックスの淺野卓夫さん、装幀は関宙明(ミスター・ユニバース)が手がけました。


本書は、雑誌『風の旅人』(ユーラシア旅行社発行/現在休刊中)に連載されていた「旅の音沙汰」および「犀の角問わず語り」から選択した11篇の文をもとに、著者の姜信子さんが構成・加筆・訂正をおこなった作品です。カザフスタン、ハワイ島キワウエア、沖縄、済州島……1948年済州島で起こった4・3事件から2011年日本を襲った3・11の震災へ……。旅人である姜さんはさまざまな地に旅をし、その土地土地で人々と出会い、さまざまな歴史、物語を紡いでいきます。


小説のようにも散文のようにも思えるこの作品、私には一篇の詩のようにも感じられます。3・11の震災をへて、「空白でつながる」ことから人間の生と死を見つめ、再生への道を問う渾身の祈りの文学。「はじまれ、いま、ここからはじまれ」と静かな、けれども力強い声で語りかけてくるような1冊です。


3・11以後、どうしてもこの連載を本にしなければいけないと感じた姜さんが、サウダージ・ブックスの淺野さんに相談し、港の人が発売元になるということで制作が始まり、デザイナーの関さんの手によって、見る人を驚かせるようなこの真っ白な本が誕生しました。パールのように光を反射する白いカバーに、「はじまれ」という書名の文字が、表から背、裏にかけてぽつりぽつりと置かれた、斬新な装幀に仕上がっています。


先日、茅場町のギャラリーマキで行われた出版記念会では、この装幀の意図について関さんが、以下のような話をしてくれました。


とにかく「真っ白」な本にしようということで、最初から編集の淺野さん、港の人とも意見は一致していた。ただ、本は流通するものであり、そのためにはバーコードや書名、ISBNコードなど、どうしても情報を入れる必要がある。最初は、裏面のバーコード近くにすべての情報をまとめようと考えた。しかし、姜さんの書いたものを読み、この本の「光」を表現するには「影」もまた必要なのだと気づき、あえて表から裏にかけて書名の文字を置くことに決めた……。


関さんは「出来上がってみて改めて、この本に必要な「影」とはこの文字だったんだ、とわかりました」ともおっしゃっていました。表を上にして積み上げても、棚のなかに本を差し入れても、書名も著者名もわからない。書店にとって、そしていまの本の流通システムのなかでは、あまりに過激なデザインかもしれません。けれども、港の人では、この真っ白な本の光を信じてみたいと思っています。

はじまりをいかに生きようか、はじまりをともに生きる言葉をいかにして紡ぎだそうか。


私は途方に暮れつつ、惑いつつ、独り、歩いてきました。


そして、いま、ここでこうしてあなたに出会った。


そして、いまこそ、あの大洪水のあとのこの世を生きる私とすべてのあなたへ。


私のひそやかな声とあなたのひそやかな声が結ばれあいますように、はじまりをともに生きるわれらでありますように。


祈りを込めて、開く、新たな頁。