新刊『ボール表紙本と明治の日本語』(今野真二 著)







このたび、新刊『ボール表紙本と明治の日本語』(今野真二 著)を刊行しました。本書は、明治期に刊行された特異な製本様式の本「ボール表紙本」に表われた、明治の日本語を観察した一冊。『文献日本語学』『漢語辞書論攷』に続く、気鋭の日本語学者、今野真二さんの新刊です。本書の装丁を手がけたのは、前2冊と同じく清水理江さん。




「ボール表紙本」とは、和装本から洋装本にきりかわっていく明治初年代に刊行された過渡的な本の形。本書では、いわゆる「ボール紙」を表紙としているものすべてを「ボール表紙本」とみなしています。内容は実録小説、人情小説、伝記、翻訳本、「刑法」といった法令書まで多彩なジャンルにわたり、明治19年、21年あたりにかなりの点数が刊行されました。


この「ボール表紙本」に表れる日本語のありかた(音声・音韻、語彙、表記など)はきわめて多様的です。「日本語の表記に関して、ある時期にはこういう書き方がなされていて、それに続く時期にはこういう書き方に変化した」というように「日本語表記の歴史」を簡単に描くことは難しい。だからこそ、多様性を備えた「ボール表紙本」は、複雑な日本語表記の変遷をたどるうえでの重要な資料になる、と本書には書かれています。


また巻頭の口絵ページには、カラーで「ボール表紙本」の書影写真を掲載しているほか、巻末には、「ボール表紙本書誌データ」も収録。現在判明しているボール表紙本の書誌情報を初公開しており、明治の書誌学情報としてきわめて重要な資料文献です。


著者の今野真二さんは、2009年に刊行した『文献日本語学』にて、「文献に蓄積された情報を丁寧にかつ慎重に読み解くことによって、そこから言語に関する知見を得る」という、「書誌学+日本語学」の複眼的な研究方法を提言しています。新刊『ボール表紙本と明治の日本語』でも、「ボール表紙本」という書物の一形態から明治の日本語のあり方を観察するというアプローチを試みています。テキストを知るためには、「どのような紙に、どのような活字で印刷され、どのように製本されているのか」といった、書物を形作る一つ一つのことがらも重要な要素となるのだ、という今野さんの考えが伝わってきます。


「ボール表紙本」という明治の一時期に表れた特異な本の形を知るうえでも、また明治期の日本語の歴史を辿るうえでも、重要な資料となる一冊です。ぜひ前二冊と合わせて読んでみてください。



ボール表紙本と明治の日本語
著者:今野真二
造本:四六判/ソフトカバー/本文280頁/カラー口絵4頁
装丁:清水理江
定価:3,000円(本体価格・税別)
ISBN978-4-89629-258-9 C3081