『死者との対話』(若松英輔著、トランスビュー)、『会うことは目で愛し合うこと、会わずにいることは魂で愛し合うこと。 神谷美恵子との日々』(野村一彦著、港の人)のこと。



先日、トランスビューから刊行された『死者との対話』(若松英輔著)という本のなかで、弊社の刊行書籍が紹介されました。今回は、この2冊の本をご紹介します。




死者との対話』(若松英輔著)は、「死者」とは何者なのか、を考える二つの講演とブックリストを収めた本。このなかで、弊社から2002年に刊行した『会うことは目で愛し合うこと、会わずにいることは魂で愛し合うこと。 神谷美恵子との日々』が、神谷美恵子コレクション『生きがいについて』(みすず書房)と共に紹介されています。この他にも、ブックリスト「「死者論」を読む」では、「生者がいかに死者と共に生きるか、あるいは生きているかを問う」本、計43点が挙げられています。どれも興味深い本ばかり。ぜひ手にとってご覧ください。


会うことは目で愛し合うこと、会わずにいることは魂で愛し合うこと。 神谷美恵子との日々』は、「銭形平次」の生みの親・作家野村胡堂の長男、一彦が遺した日記をまとめた書。1934年、腎臓結核のため21歳の若さで亡くなった一彦が、1931年から32年にかけて書いた日記です。そこには、あるひとりの女性への恋心が切々と綴られています。この女性こそ、後に精神科医としてハンセン病患者たちのために力を尽くした、神谷美恵子だったのです。


当時18歳だった一彦は、親友・前田陽一氏の妹美恵子と、「恋人どうし」とも呼べぬほど淡い恋愛関係を持ちます。しかし面と向かって愛を告白することもできないまま、一彦の病死によってふたりの関係は終わりを告げます。


敬虔なクリスチャンであり、ひとむきな勉強家であったひとりの青年の純愛日記は、「日記」という形を超えて、ひとつの文学作品としてその切ない想いを伝えてくれます。そして若き日の恋愛と一彦の死とは、神谷美恵子という女性の一生にも大きな影響を与えたのではないでしょうか。



美恵子さんに最後の挨拶をして以来四ヶ月たった。美恵子さんの姿を遠くに見てからも三ヶ月たった。


けれどもこんな事が何で最大の苦しみになり得よう。僕は本当に幸福なのだし又美恵子さんもとても幸福なのだから、僕には我慢して居る事が出来る。


そして、会うという事は、目でもって愛し合う事になるけれども、会わずに居る事は魂をもって愛し合う事を教えられる。


友達の場合でも、本当に愛し尊敬し合って居るなら会わずに居てもお互に友情を抱いて居る事が出来る。そして会う事は非常に嬉しい事に違いない。まして誰よりも愛する人の場合に於てをや、会う事を願い、それを悦ぶのになんの不思議があろう。


(本書より)