新刊『『言海』と明治の日本語』が出来上がりました。




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新刊ラッシュの9月ですが、まずはその1冊目、日本語学者の今野真二さんの新刊『『言海』と明治の日本語』をご紹介します。本書は『文献日本語学』『漢語辞書論攷』『ボール評紙本と明治の日本語』に続く、港の人刊行の今野真二さんの著書4冊目。今回も、装幀は清水理江さんが手がけてくれました。


本書は、国語学者大槻文彦が編集した、近代的スタイルをもつ日本で初めての国語辞典『言海』(明治24年)を手がかりに、明治期の日本語の姿を明らかにした一冊。『言海』の成り立ちや性質を詳しく分析しながら、明治の日本語についてひも解いていきます。日本語学というジャンルにとどまらず、書誌学、文献学といったさまざまな観点から日本語を考察する今野真二さんらしく、日本語学の研究書ではありますが、辞書マニア、『言海』ファンにとっても充実した内容となっています。


第1章から第3章までは、『言海』の成り立ちを詳しく分析し、第4章では『言海』と明治期に刊行された他の国語辞典や漢語辞書との比較対照も行っています。また本書のあとがきは、本における「分かりにくさ」について書かれた感動的な文章となっています。


書店には今週末〜来週頃から並ぶ予定です。ぜひ店頭にてご覧ください。


一冊の書物が「起承転結」に従って述べられた一つの物語であることは、それはそれで分かりやすいであろう。しかし、この世にあるあらゆることを、「起承転結に従って展開する物語」という枠組みの中に落とし込めるわけではないはずだ。すぐに分かったからおもしろい、ということもあろうが、すぐに分かってしまってつまらないことだってあるはずだ。「分からないことの豊かさ」の対義表現は(すぐに)「分かることの貧しさ」になる。


印刷部数が多い書物をつくるということになった時に、まず求められるのは「分かりやすさ」であり、「起承転結」である。そういう「起承転結に従って展開する物語という枠組み」の中に落とし込めないものは、結局出版できないことになる。それはそれで当然かもしれない。しかし、「輝く断片」というものもあるのではないか。わたしたちは、長い長い物語ではなくて、断片的な表現によって啓示を受けることがあるのではないだろうか。


今野真二『言海』と明治の日本語』あとがきより



『言海』と明治の日本語
著者:今野真二
判型:四六判並製/本文280頁
定価:2,800円(本体価格・税別)
ISBN978-4-89629-264-0 C3081