江崎満 森羅万象展

港の人のHPを見てお気づきのかたもいらっしゃると思いますが、港の人では、来月、かまくらブックフェスタと、あともうひとつ、大切なイベントをおこないます。それが、「江崎満 森羅万象展」です。
江崎満さんは、現在、能登半島の山里に住む木版画家ですが、以前は横浜に住んでおられました。港の人の社名は、詩人の北村太郎さんと親しくさせていただいたご縁からのものですが、そのとき、まだ版画家ではなく漫画の原作者だった江崎さんも北村さんの近くにいて、皆で一緒の時を過ごしました。
港の人と江崎さんとは、長い時間にわたる浅からぬつき合いがあり、2003年には江崎さんのエッセイ集『星吐く羅漢』を上梓、そして今年、念願の鎌倉での個展を開催できることとなったのです。おひさまの香り、土の香り、海の香り、それから、鳥や虫や獣たちのさまざまな匂いが漂ってきそうな作品たちを、どうかひとりでも多くのかたにご覧いただきたい。江崎さんも、期間中ずっと在廊の予定です。
『星吐く羅漢』から、江崎さんが北村太郎さんについて書いているところを引用します。北村さんは赤トラの猫がお気に入りだったので、江崎家で飼われる赤トラの猫は、すべて「太郎」と命名する慣わしになっているとのことです。

わたしが横浜から奥能登に移住したのは氏との知遇を得て五年後のことだった。僅か五年の付き合いだったが、人生を迷っていたわたしは励まされ、たくさんのアドバイスをいただいた。氏から多くのことを学んだが、それを一言でいうと「自由とは何か」についてであった。観念論ではない。実生活の上での自由である。氏は丘の上の狭い安アパートに暮らす自由な生活者である。氏は三十歳も年下のわたしに大人としての尊大さを見せたことがなく、あくまでも対等なひとりの人間として接してもらった。その態度は全くあけすけで、いいことも悪いことも自身のそのままをさらけ出して見せてくれるのであった。思想やドグマに囚われることなくそよ風のように自由だった。そしてわたしはそんな氏の自由さに触れるにつけ、氏の自由の背景にいつもぼんやりと掴みきれないひとつのイメージが浮かんでくるのをどうしようもなかった。それを敢えて言葉にすれば「孤独と死」であろうか。そう考えるなら氏の自由の限りなくしなやかですがすがしかったことが腑に落ちるのである。

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↑港の人の事務所には、江崎さんの初期の作品「ネコノミクン」が飾ってあります。