『中島敦「マリヤン」とモデルのマリア・ギボン』、刊行されました。

「李陵」「山月記」などで知られる小説家、中島敦。彼は1941年に南の島、パラオ南洋庁に赴任し翌年3月まで滞在したのですが、喘息が悪化し、その年の12月に33歳でこの世を去ることになってしまいます。わずか8カ月の滞在でしたが、このときの経験をもとにいくつかの作品を書いていて、そのひとつが「マリヤン」です。
この本の著者、河路さんは、この作品を読んで主人公のマリヤンに親近感を覚えたといいます。そしてモデルとなった女性に興味を持ち調べると、ご本人のマリア・ギボンさんは1971年に亡くなっていたことがわかりました。そこで河路さんは実際にパラオを訪ね、マリアさんを知る人を訪ねていきます。そのプロセスをつづったエッセイが、この本の中心です。そして、中島敦の作品「マリヤン」、同じ時期にパラオに滞在し、一緒に日本に帰国した土方久功中島敦の交流についてのエッセイ、パラオの人々から送られたメッセージなどが、いろいろな角度から、戦前の南の島で異国の人々が交わりをもった、その軌跡をじんわりと照らし出していくのです。
著者の河路さんは、研究者として、かつてあった文化交流の現場を調査しながら、マリアというパラオ女性、そしてパラオの人々に心を寄せていきます。時代や国境を越えて人々が心を通わすその様子には、直接は関係のない私達にも、何か心の温まるものを伝えてくれます。こういった交流を未来へ繋げていくことは、ささやかであっても意味深いことなのではないでしょうか。パラオの方々にも読んでいただけるよう、この本は、英語とのバイリンガルになっています。


詩集『中島敦「マリヤン」とモデルのマリア・ギボン』
[編著者]河路由佳
[造本]A5判/並製本/口絵4頁+本文104頁
[定価]1,600円(本体価格・税別)
ISBN978-4-89629-282-4 C0095