『生きとし生ける空白の物語』を紹介いただきました。


今年3月に刊行した姜信子さんの『生きとし生ける空白の物語』が、14日「読売新聞」で紹介されました。「沈黙に言葉を読みとる」と題された書評を書いてくださったのは、批評家の若松英輔さん。

この本は、エッセイ、小説といった紋切り型の形式には収まらない。創作と回想あるいは時代への批評と提言が短文のなかに渦巻きながら美しい響きのなかで語られている。


この本の特徴を的確に捉えてくださった、こんな文章に続けて、次のように語りかけてくれます。

真実が紡ぎ出されようとしているのである。それが何であるかを考えるのは、その光景を目撃してからでもよいだろう。


刊行からこれまで、いろいろな誌面でこの本のことを紹介していただきました。どの書評も、著者の姜さんの言葉にこめられた熱を、自らの熱でもって受け止めてくださっているような、切実で重みのある書評ばかりで、版元にとってはとても嬉しいことでした。

小学館のPR誌「本の窓」では、ノンフィクション作家の河合香織さんが、とりあげてくださいました。この本の冒頭で語られる2011年3月11日にまつわる不思議なエピソードの紹介から始まり、ていねいに内容をひもといてくださっています。
「書食女子の読書日記」と題された河合さんのこの連載は、毎回2冊の本を取り上げて両者を絡めさせながら語るというユニークな書評なのですが、「心の空白」と題されたこの回で選ばれたもう一冊は、中村智志さんの『段ボールハウスで見る夢』(草思社)。ホームレスの人へインタビューをおこなった1998年に出た本です。約20年間の隔たりのある2作を、インタビューや執筆を仕事とする河合さん独自の視点でつないでいきます。そして、こんな文章でしめくくります。

心に空白があるからこそ、他の人の空白の心もまた受け容れることができるのかもしれない。(中略)一見見捨ててしまいそうなことを宝石のように丁寧に扱ったこの二作は、他者の尊厳を守り、他者を尊重することの意味を教えてくれる。


また、「東京人」6月号では、エッセイストの平松洋子さんに紹介いただきました。一節を引用します。

十五年前、七十歳で亡くなった著者の父は、生前どう問うても「在日」にまつわる思いや記憶について口を閉ざし、ついに語ることがなかったという。言葉の不在が表す、「空白」の在処。取り返しはつくのかと畏れながらも旅を重ね、言葉をもとめる文章に巡礼の姿が重なって、読み止むことができなかった。


この本を読んでくださったかたがたと、「自らの心の内にある空白」と「他者の心にある空白」へと思いを寄せる、そんなささやかな、でも、決定的な瞬間を分かちあうことができたらと、心から願います。一冊でも多くの人の手に渡せることができるよう、これからもがんばります。