加島祥造さん追悼

昨年12月25日に、加島祥造さんが92歳で亡くなりました。黒田三郎、中桐雅夫、鮎川信夫三好豊一郎北村太郎田村隆一、衣更着信と、詩人仲間たちを順々に見送り、晩年は老子や墨彩画の世界で楽しそうに遊びまわって、その生を閉じました。
港の人からは「加島祥造セレクション」として3冊の著作を出させていただいています。2007年から2009年、加島さんが80代のとき、ご自身の「詩の翻訳」という仕事をひとつにまとめておきたいとおっしゃり実現したものです。詩を翻訳することの難しさを知り尽くし、そもそも不可能なことかもしれないと承知しながら、「英語」と「日本語」と「詩」への深い理解と愛をもとに、独自の立場で「詩」というものに挑んでいった成果が、この3冊です。
第1巻「最後のロマン主義者」は、イエーツの詩の翻訳とイエーツにかんするエッセイをまとめたもの。長年にわたって書きついできたものの集大成で、加島さんがイエーツを深く愛し、イエーツの詩の魂に触れようとその手をのばし続けてきた姿が伝わってきます。
第2巻は「秋の光」。秋をうたった詩を集めたユニークなアンソロジー詩集。自身の詩と白楽天陶淵明など中国の詩の翻訳そして、エリザベス・ジェニングスとイエーツの詩が収められています。
第3巻「大鴉」は、ポーの訳詩集。とくに「大鴉」は最後の最後まで繰り返し原稿に手を入れ、最後には「僕、80歳を過ぎて、やっとここまでできたよ」と、とても満足そうでした。
「最後のロマン主義者」には、「彼が死んだのは冬のさなかの一日だった」という行で始まるオーデンによる追悼詩「一九三九年一月に死去せるW・B・イエーツを偲ぶ」もあります。そこから最後の部分を引用します。

あらゆる人の顔から
知性を欠いた鈍い眼が見つめている。
そこでは愛憐の情はすっかり凍りついて
固く、融けようもないのだ。

だから詩人よ、君は
この暗い夜の底までおりてきて
晴朗の声を高めてわれらを説き
われらを喜びにみちびいてくれたまえ。

ひとつの詩で耕して
この呪われた土地を葡萄園に変えてくれ。
人間の失敗史について
苦い陶酔とともに歌ってくれ。

心の乾ききった砂漠のただなかに
それを癒す泉を湧きださせてくれ。

彼の時代の牢獄のなかにいる
自由なる人に、
いかに感謝すべきかを教えてくれ。