『法廷通訳人』、好評発売中です。

昨日の「東京新聞」書評欄で、昨年12月に出た本『法廷通訳人』四方田犬彦さんがご紹介くださいました。

四方田犬彦「言葉の壁と人生を見つめ」(東京新聞 1月31日)

この本はサブタイトルが「裁判所で日本語と韓国語のあいだを行き来する」となっており、韓国語の法廷通訳を務めている丁海玉さんが、長年の体験から印象に残るエピソード、そこから感じたこと、考えたことを綴った本です。
ひとつの言葉を他の国の言葉に置きかえることの難しさは言うまでもありませんが、法廷という特別な場で、人生を大きく左右する言葉をやりとりするとなれば、通訳人にかぶさるプレッシャーはますます大きくなります。この本で紹介されるどのエピソードもリアルな迫力があり、法廷は厳粛な場であると同時に、怒り、哀しみ、恨み、プライド、人生観などさまざまな感情や、金銭や社会的地位といったものが複雑に絡みあう、なまぐさい人間ドラマの現場でもありことを伝えています。
本書から少し引用します。

被告人が法廷に入ってきた。
様子をさりげなく観察する。落ち着いているのか、興奮しているのか、泣いているのか、自暴自棄になっているのか……。その時々の置かれた精神状況で、出てくる言葉のニュアンスも微妙に変わってくる。見えないニュアンスを、通訳する時にどのくらいわかりやすく訳語として表現できるのか。これは公判のたびに考えさせられる自分自身への課題でもある。

法廷という海に現れたその裂け目は、法の谷間にも、言葉の谷間にも見える。ぽっかりあいたその空間を眺めながら、法廷通訳人は落ちそうで落ちることのできない危うい均衡を、かろうじて保っている。
日本語に通じない人が日本の裁判所で裁判を受けるということ。通訳人が法曹の世界で仕事をするということ。
明確なルールやモラルはありそうでなかなか目に見えず、暗黙の了解らしきものを手操りしながら法廷通訳人は法の谷間で立ち位置をさぐる。


また、四方田犬彦さんは書評で、このように書いていらっしゃいます。

どの挿話も身を切られるように悲痛な短編小説のようである。だがその状況の背後には、戦後日本社会にあって少数派であった韓国人の、離散と定住の問題が横たわっている。


言葉と文化。日韓の歴史。法と生活。さまざまなテーマを含む本ですが、法律用語の注釈もついてますし、丁さんの書く実感のこもった文章は法律や裁判に無縁の人にも読みやすく、貴重な記録にもなっています。ぜひお手にとってごらんください。



[書名]法廷通訳人 裁判所で日本語と韓国語のあいだを行き来する
[著者]丁海玉
[造本]四六判/並製本/カバー装/本文248頁
[定価]1,800円(本体価格・税別)
ISBN978-4-89629-306-7 C0036
http://www.minatonohito.jp/products/177_01.html