『かまくらパン』、焼き上がりました。

港の人では、これまで、『湘南漁師物語』、『鎌倉広町の森はかくて守られた』など鎌倉が舞台となっている本、鎌倉にゆかりのある文学者の方々の本などを数多く出版してきました。港の人は、鎌倉生まれの鎌倉育ちの出版社。海や山、そして人々。鎌倉からは日々たくさんのものをもらっています。ですから、地元とのつながりのなかで本づくりさせていただけることは、特別な充実感や発見を得られる貴重な機会であり、ありがたいという言葉に尽きます。
そんな思いのなかから生まれたのがこの新刊、『かまくらパン』です。鎌倉にはおいしいレストランやおみやげ品がたくさんありますが、もっとも身近な存在であり、「気になる存在」だったのが鎌倉のパンでした。
駅から離れた住宅街の真ん中にあるのに、お店に行くといつもお客さんでにぎわっていて、実際に食べてみたら絶品だった。併設のカフェで、焼きたてパンとスープを食べたら絶品だった。鎌倉ではみんな知っている老舗のパン屋さんに行ってみたら、定番の食パンやあんパンが絶品だった……そんな驚きの体験がいくつもあったので数を絞ることが難しかったのですが、今回は22店のパン屋さんに取材をお願いし、登場していただきました。
取材して驚かされたのは、どのパン屋さんもこちらの想像を超えるほど働き者で、皆さんが「おいしいパンを」「体によいパンを」と、ひたむきに取り組んでおられたということです。文字通り朝早くから夜遅くまで仕事をなさる姿を目の当たりにして、一生懸命働く人間の美しさを改めて思い知りました。パンのおいしさはもちろんですが、そんな感動もお伝えしたいと思います。
とは言え、港の人初めての食の本ですから、手探りの部分も多くありました。快く協力くださったパン屋さんの皆さんに改めて感謝です。小麦の香ばしさと甘さと、酵母の風味がブレンドされた、あの何ともいえないパンのおいしい香りが読者の皆さんにも届きますように。
この本では、お店とそのパンのご紹介のほか、沼田元氣さん、澁澤龍子さん、いがらしろみさんの3名にかたにパンにかんするエッセイやインタビューをお願いしました。また、パンが登場する詩や短歌をいくつかご紹介しています。どれもパンの本質をとらえていて素敵な詩ばかりなのですが、そのひとつ、杉崎恒夫さんの『パン屋のパンセ』という歌集からの短歌に、こういうのがあります。

あたたかいパンをゆたかに売る街は幸せの街と一目で分かる


ここに登場する街は鎌倉のことなのだと勝手に思い入れながら、この本をつくりました。
収録したパン屋さんには、製造から販売までをおひとりで、もしくはご夫婦でこなしている小さなお店も少なくありませんので、実際にお出かけになる前にネット等で営業日や営業時間を確認なさってくださいね。あ、それから鎌倉の空にはトンビがいっぱいいます。油断してると空高くから急降下してきてあっという間に持って行かれてしまうので、食べ歩きには要注意です。では、焼き立てパンを味わいに、ぜひ鎌倉へいらしてください。お待ちしています。


[書名]かまくらパン
[造本]A5判/並製本/本文80頁(オールカラー)
[定価]1200円(本体価格・税別)
ISBN978-4-89629-309-8 C0076
http://www.minatonohito.jp/products/179_01.html