「きのこ漫画」と「胞子文学」

6月も末、ジメジメもピークに達しつつある今日この頃、たっぷりの水分と高い温度に包まれて、生き物たちは日々活発に細胞を増殖させ、生命の営みを発酵させていくかのようです。そんななか、2冊の本をご紹介します。
1冊は、港の人の『胞子文学名作選』。このブログで何度もご紹介しておりますが、苔やキノコ、羊歯やカビ、海藻といった胞子でふえる生物が登場する小説や詩を集めたアンソロジーです。作品のセレクトと解説は、倉敷の古書店蟲文庫の店主であり苔の研究家でもある田中美穂さん。収録した文学作品の幻想的な魅力もさることながら、目に見えぬ胞子という存在に心を寄せ、亀や猫とも親しくつきあっている田中さんの生き物観が、本のあちらこちらからひっそりと、でもはっきりと伝わってきます。刊行から約3年経ちますが、今でも高い人気を頂戴しています。
この本には、兄貴分となる本がありまして、それが『きのこ文学名作選』。こちらは、写真評論家でありながら、「きのこ文学」というジャンルの発見者にして永遠の第一人者、孤高のきのこ文学研究者としてたくさんのきのこ関係の著書をお持ちの飯沢耕太郎さんが編者です。刊行当時から大きな反響を頂いたのですが、部数限定版のため現在は品切れになっています。
その飯沢耕太郎さんが選者となった新刊が、ご紹介するもう1冊の本、『きのこ漫画名作選』です。飯沢さんは、『きのこ文学名作選』制作当時から、「きのこ漫画」の面白さ、重要性についても強調しておられたので、『きのこ漫画名作選』は念願の一冊ということになると思います。
ひと目見て、同じ出版社から出ていると思われるかもしれませんが、『きのこ漫画名作選』の出版元はPヴァインさんですので、お間違いなく。どちらも、吉岡秀典さん(セプテンバーカウボーイ)がデザインを手がけておられ、版元をまたぐ例を見ない展開となりました。きのこは、さまざまな境界を自由に行き来する存在ですから、文学と科学はもちろん、文学と漫画、あるいは、版元と版元をも、乗り越え、融合させてしまうのは当然なのかもしれません。Pヴァインの担当編集者のかたとも相談して、2社で協力し合いながら胞子を拡散していくことになりました。
みなさんも、ぜひ、2冊一緒にお楽しみください。