『ハリネズミの耳 音楽随想』を刊行しました


文芸批評家、新保祐司さんの新刊が出ました。
昨年の冬の『シベリウスと宣長』は、新保さんが長年書き継いでいらしたシベリウス論をまとめたものですが、フィンランドの作曲家と江戸の国学者というふたつの名前の取り合わせに、興味をもってくださった方も多かったようです。新保さんの連想はいつも時代やジャンルを軽々と飛び越えるので、はじめは一瞬戸惑うのですが、文章を読むと、その連想の底にある感覚や感受性が腹に響く低い音となって伝わってきます。
今回の新刊『ハリネズミの耳』は「音楽随想」というサブタイトルがつけられているように、前著に続く音楽の本です。シベリウスグリーグといった北欧の作曲家やペルゴレージグレツキハイドンなどの作曲家、パーヴォ・ヤルヴィウゴルスキリリー・クラウスなどの演奏家たちなど、新保さんらしいセレクトで取り上げられています。信時潔、花岡千春といった、日本の音楽家が取り上げられているのも特徴的と言えるかもしれません。
このちょっと不思議なタイトルについてお話ししましょう。古代ギリシアの詩人アルキロコスの詩に「狐はたくさんのことを知っているが、ハリネズミはでかいことを一つだけ知っている」という言葉があるそうです。今の私たちは、情報や知識の断片でものごとをわかったような気持ちになりがちで、ひとつのことだけでいいから深く掘り下げていくことが難しく感じられてしまいますが、この本では、そんな私たちへ「狐の耳」よりも「ハリネズミの耳」のほうが大切ではないかと語りかけています。その音楽に何が聞こえるのか、そのたったひとつのことを大切にして、それを何年もかけて自分の内部で熟成させる。音楽に限らず、文学でも絵画でもそのようにして楽しめるのは、大人の特権かもしれませんね。
もともとはクラシック音楽専門誌に連載されていた原稿に、大幅に手を入れて再構成しました。さまざまな思い出話を織り交ぜながら語る文章は、誰にでもリラックスした気持ちで楽しんでいただけると思います。これからクラシック音楽をきいていきたいと考えているかたにも、よいガイドになってくれそうなわかりやすい内容です。
CDサイズの、ちょっと可愛らしい本。少し光沢のあるグレーに黒い箔の、上品な装幀に仕上がりました。どうぞお手にとってみてください。



[書名]ハリネズミの耳 音楽随想
[著者]新保祐司
[造本]四六判変型/ソフトカバー/カバー装/本文264頁
[定価]1800円(本体価格・税別)
ISBN 978-4-89629-305-0 C0073
http://www.minatonohito.jp/products/176_01.html