堀江敏幸『正弦曲線』


以前、北村太郎さんの『樹上の猫』『光が射してくる』についてエッセイと書評を書いてくださった小説家の堀江敏幸さんが、9月に刊行された新刊エッセイ集でも、『光が射してくる』のことを取り上げてくださいました。本書のことが書かれているのは、『正弦曲線』(中央公論新社)に収められた「中庸、をめぐって」という文章です。北村さんが詩人の垂水千賀子さんの詩について書いた「したたかな〈殺〉性」(『光が射してくる』収)という文章を取りあげながら、「中庸」とは何か、ということを書かれています。


「したたかな〈殺〉性」では、北村さんがその詩を引用しながら、垂水千賀子は「脆弱な「中庸」や「ほどほど」は、たぶん、どんな形であれ認めようとはしないにちがいな」く、「したたかな〈殺〉性を持ち、それを読者に突きつける」詩人だ、と言及しています。一方堀江さんは、こうした箇所に注目した北村さんという詩人をきっかけに、「中庸」さというものについて語られています。


『正弦曲線』は、「婦人公論」に連載されたエッセイをまとめた一冊です。タイトルの「正弦曲線」とは、三角関数のサイン、コサイン、タンジェントのうち、緩やかな曲線を描くサインカーブ(=正弦曲線)のことだそうです。その曲線を「優雅な袋小路」とたとえる堀江さんのエッセイは、日常のちょっとしたできごとや風景が冷静な視点で切り取られ、それらを再構成したような文章です。読んでいると、まるでちょっと寄り道をしているうちに袋小路に入り込んでしまったかのような印象をあたえてくれます。また本書では、北村さんだけではなく、黒田三郎清水哲男など、現代詩人について取り上げた文章も読むことができます。本の中身である文章だけでなく造本にもこだわる堀江さんらしく、函入りで、函と表紙にライチの枝の絵が箔押しされた、すてきな本です(装幀は間村俊一さん)。


正弦曲線

正弦曲線