岡崎武志さんと『ドガ・ダンス・デッサン』


あいかわらず暑い日が続いています。港の人の夏休みは、13日から16日まで。月末には新刊の活版印刷による歌集の刊行が待っています。本の詳細はまた後日お知らせします。


さてずいぶん時間がたってしまいましたが、先月24日、雑司ヶ谷鬼子母神通りの商店街で開催された古本フリマ「みちくさ市」に行ってきました。当日は朝からうだるような暑さで、私は終了直前の17時頃から出かけていったのですが、少ない時間のなかでもいろいろな本との出合いがありました。


なかでもうれしかったのは、古本ライター&書評家の岡崎武志さんと初めてお会いできたこと。岡崎さんは、ブログで『光が射してくる』を紹介していただいたり、書評サイト「BOOK JAPAN」(書評はこちらから)やNHK-BS「週刊ブックレビュー」で『雪の宿り』の紹介していただいたり、これまで何度もお世話になっている方です。手紙などでやり取りはしていましたが、実際にお会いするのはこれが初めて。本やブログから想像したとおりの穏やかそうな方で、ドキドキしながらも本のことなどをお話しすることができました。


そんな岡崎さんの出店で、すてきな本との出合いがありました。たくさんの古本のなかから見つけたのは、ポール・ヴァレリー著、吉田健一訳『ドガ・ダンス・デッサン』(新潮社・一時間文庫)。詩人のヴァレリーが晩年に書いた、画家のドガについての画家論・人間論です。実はこの本、『光が射してくる』の読書案内のなかで紹介されており、引用箇所を調べるために図書館でその一部を読んで以来、いつかゆっくり読んでみようと思っていた一冊です。初めてお会いした岡崎さんからこの本を買えたのは、何だか不思議な縁を感じました。


ドガ・ダンス・デッサン』は、フランスで1936年にドガの画も収めた豪華本が刊行され、1938年にテキストのみによる普及版が刊行されたそうです。日本では1940年に『ドガに就て』という書名で筑摩書房から出ていたものを、1955年、体裁と書名を変えて新潮社(一時間文庫)から再刊。さらにその後、1977年に『ドガに就て』、2006年に『ドガ ダンス デッサン』(清水徹訳)として、筑摩書房からそれぞれ再刊しています。『光が射してくる』で紹介されていたのも、みちくさ市で見つけたのも、新潮社の一時間文庫版。装幀や造本もとてもおしゃれで、中に収められているドガの画(踊り子のデッサンなど)もきれいな状態で見ることができます。今から50年以上前の本ですが、吉田健一による訳は少しも古びておらず、ヴァレリーの詩的世界とドガの芸術世界の両方を楽しめます。


本の内容については、以下の北村太郎さんによる「読書案内」に要約されています。ドガの画のことだけでなく、ヴァレリーによる、ドガの人となりをあらわす数々のエピソードも収められた、すてきな一冊です。


これはフランスの詩人ヴァレリイが六十七歳のときに書いたもので、若いときに親しく交わった画家のドガの思い出話を中心にして、画とかデッサンについてのドガやヴァレリイ自身の考え、ドガが好んで題材にしたバレエの踊り子のことから舞踏についていろいろ考えたこと、そのほか歴史、政治、人生などについて、味わいの深い話がくりひろげられています。なにげない筆づかいのうちに、ドガという一人の画かきの姿が、ちょうどドガの画の感じそのままに、えがき出されていて、たいていの小説よりもおもしろいような気がします。
(中略)
ヴァレリイという詩人の世界や人間に対する考え方は、かなり暗く、将来の社会にほとんど希望を持っておりませんでした。そういう彼の考え方には、いくつか疑わしい点があるにしても、一生じぶんの心と世界を動きを見つめてゆくことに努力したこの芸術家の文章は、やはり私たちにすばらしい魅惑と勇気を与えてくれます。



北村太郎光が射してくる』、279〜280ページ)


ドガ・ダンス・デッサン (1955年) (一時間文庫)

ドガ・ダンス・デッサン (1955年) (一時間文庫)

ドガ ダンス デッサン

ドガ ダンス デッサン