『ロケットの正午を待っている』、刊行いたしました。

文学探訪と聞くと、人はたいてい、文人の足跡を辿りつつ往時をしのぶといった、優雅で奥ゆかしい旅路を思い描くだろう。(中略)だが、ドイツの地に降り立った私がまず訪れたのは、文学の香りとは無縁の史跡だった。たとえばそれは、ハルツ山地の麓に掘られた軍事工場の跡地であり、バルト海を臨むナチス・ロケットの開発基地であった。はたしてそんな場所を文学の舞台にしたのは、いったいどこの誰なのか。

この本は、こんなふうに始まります。いったいどこの誰なのか。この引用部分のすぐあとにで答が明かされます。ニューヨーク州ロングアイランド出身のトマス・ピンチョン、その人です。
著者は、ピンチョン論を中心に批評の分野を広げつつある波戸岡景太さん。本書は、ピンチョンをキーとしながらも、ホロコーストアメリカンコミック、村上春樹吉田修一、またドイツの浜辺の情景などが語られ、ゆったりと展開する文学評論です。
この本は、波戸岡さんご自身の意図として、活版印刷によって制作されました。また、本書にはドイツで撮影されたものなど5点の写真が収められていますが、これは本文とは別の用紙に印刷され、一点ずつ手作業で貼りこまれています。
紙とインキがつくり出すこの雰囲気は、やはり活版印刷ならではものですが、このような造本は、たんに美しさのためではなく、本書で述べられている文学とテクノロジーの問題や、時間の問題、また、現代を生きる私たちを刺激し続けるものとしての文学批評という主題と呼応するものして、語りかけてくるように思われます。

刊行を記念して、6月18日に東京・下北沢の書店B&Bトークイベントがあります。木村伊兵衛賞を受賞した写真家、新井卓さんとの対談です。詳細はこちらへ→





[書名]ロケットの正午を待っている
[著者]波戸岡景太
[造本]四六判/上製本/カバー装/本文72ページ*本文=金属活字活版印刷
[定価]1800円(本体価格・税別)
ISBN978-4-89629-313-5 C0098
http://www.minatonohito.jp/products/184_01.html